Prince - 3121 | NOTRE MUSIQUE

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Elle est retrouvee.
Quoi? - L'Eternitee.
C'est la mer alleee
Avec le soleil.

3121プリンスの前作"Musicology"以来約2年ぶりの新作。
今回は新たにユニヴァーサル・モータウンと契約し移籍後初のアルバムとなった。プリンスはこれまでにもワーナーとの確執以後はアリスタやコロンビアといったメジャーレーベルと契約しているが、どちらもわずか1作のみのリリース、作品の質に合わせてメジャーレーベルでリリースするか、自己のNPGでリリースするかを使い分けている節がある。これまでのメジャーレーベルでリリースされたのが"Rave Un2 The Joy Fantastic"と前作の"Musicology"といったプリンスのアルバムの中ではセールス趣向の強いアルバムだったのに対して、NPGリリースの作品は前々作のインストの"n・e・w・s"をはじめとするプリンスのアーティスティックでエゴスティックな音楽志向を強く感じさせる作品である。そしてメジャーのユニヴァーサルからのリリースとなった本作であるが、結論からしてセールス志向の強い作品はメジャーで、という定義を裏付けるかのごとく対外的な作品であるといえる。前作の"Musicology"で久々に自らのアーティストエゴと流行のコンテンポラリーな要素を結実させ、これまでのクオリティを下げずに大衆的な作品となりセールス面でも成功したプリンスであるが、本作でもそのアーティストエゴと大衆性の融合と同胞という方向性は変わっていないが、サウンドの持つエネルギーはさらに強靭で硬質なものへと変貌を遂げている。前作でかつての80年時代の黄金時代のテンションとポップ性を取り戻したプリンスであるが、本作での具体的なサウンドの変化は、かつてのプリンスが持っていた上面は軽快でありながらも芯の重いファンクネスを現代にリアルに再現した(取り戻した)点にあると言えるだろう。(具体的には"Parade""Lovesexy"や"Black Album"のサウンドを連想していただけると解かり易いであろう)
アルバムに収録された曲のヴァリエの豊富さは相変わらずといったところであるが、久々の起用となったかつてのNew Power Generationのリズム隊であるマイケルB(ds)とソニー・トンプソン(b)参加のアルバムタイトル曲"3121"に始まり、先行シングルにもなったオリエンタルで官能的な"Te Amo Corazon"、かつてのプリンスサウンドの代名詞とも言える密室型ファンクの進化系のような"Black Sweat"、新たにプリンスが調教(教育)中のテイマー(Tamar)と美しく絡み合う"Incense And Candles"と"Beautiful Loved And Blessed"、パープルレインや1999、そして最近DVD化された"Sign O The Times"を思わせるひたすらポップな"Fury"、シンプルなタイトルとはうってかわりピアノを中心にドラマチックに盛り上がるミディアムバラードの"The Dance"そしてラストはこれまたプリンスの大得意とするファンキーチューン"Get On The Boat"で幕を閉じる。基本的に前述のマイケルBとソニー・トンプソンの参加のアルバムタイトル曲とラストのJoshua Dunham(b)、Coleman Dunham(ds)参加のラスト以外はすべてのバックトラックはプリンス自身によるもので、今やお馴染みとなったメイシオとキャンディ・ダルファーの二人は全編に渡って参加している。因みにタイトルの"3121"とはプリンスの現住所の数字でもあり、先行シングルの発売日の12月13日を逆さにした数字もあるらしいが真意は不明。ミスティフィカシオンな要素を盛り込むのが好きなプリンスらしいタイトルである。
プリンスの黄金時代である80年代の彼自身のシャウトはバブル経済最盛期の日本人の金塗れの狂喜を象徴しシンクロしている。やがて日本経済のバブルが弾け、プリンスは改名騒動を起こし結婚と離婚を経験する。そして奇しくも日本経済が上向いてきたとされる昨今、プリンスも本来のファンクネスを取り戻した。このアルバムで聴かれるプリンスのサウンドには何の迷いもない。かつて天才であるが故にひとり独走状態で登りつめ、飽和状態となってしまったプリンスのサウンドはここにきてより強靭な存在感と、より確信性を獲得した。普遍であるが故に不変である。本Blogで前作"Musicology"のレビューでは快作と表現したが、本作は文句なしの傑作であると言って良いだろう。
前作及びその後のツアーでセールス的にも大成功を収めたプリンスが、今度はユニヴァーサル・モータウンという今をときめく旬のコンテンポラリーなブラックミュージックを世に送り出しているレーベルから本気で新作をリリースをしてきた。リリースする作品すべてクオリティが高く、活動期間も長く常に精力的という現代のデュークエリントンとも言うべきプリンスが完全復活した。(といっても決して落ちていた時期があったという訳でもないが、この盛り上がり方と充実度は復活という表現が許されるほどであろう) 村上春樹氏はデューク・エリントンに対して敬愛を込めて、これだけ巨大な人にこれだけ長く活躍されるとやっかいだ、と述べていたが、プリンスほどの能力と経験のあるアーティストが、次々に優秀なアーティストが生まれる情報過多の現代においてこれほどコンスタントに素晴らしい作品をリリースするという事実にも全く同じ表現と賛辞が送られて然るべきであろう。確かに恐ろしくやっかいなことではあるが、昔ながらのファンとしては、これほど喜ばしいことはない。