The Beatles - Abbey Road | NOTRE MUSIQUE

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Elle est retrouvee.
Quoi? - L'Eternitee.
C'est la mer alleee
Avec le soleil.

Beatlesビートルズの1969年のアルバム。
発売日はその後1970年リリースの"Let It Be"のほうが後になるが (因みに"Let It Be"はそれ以前に録音されたものをフィル・スペクターがビートルズ抜きで完成させたものであり、近年フィル・スペクターのメスの入っていないオリジナルのテイクが"Let It Be Naled"というかたちでリリースされ賛否両論を呼んだ。)、実際に録音したのはこちらのほうが後で、実質的にビートルズのラストアルバムである。ホワイトアルバムと呼ばれるビートルズのオリジナルアルバム唯一の2枚組大作"The Beatles"以降4人それぞれの音楽に対する方向性の相違が広がり、それぞれのメンバーが書いてきた曲を書いたメンバー主導で他の3人が適当にバックをつけるという方法が定着する。映画"Let It Be"を見るとそのあたりのアレンジや演奏が実に適当にやられているのが明白で、ファンにはただ辛辣なだけの映像であった。ビートルズというバンドの持つサウンドが多様化していくといえば聞こえは良いが、要はバンドとしてのまとまりに欠けてきただけであった。最悪と酷評され空中分解してしまったアルバム"Let It Be"の前身であるGet Back Sessionsの頃には、解散は時間の問題という認識が各自にもあり、ヨーコ・オノという新しいパートナーを見つけたジョン・レノンをはじめ、ソロ活動を始めておりこのアルバムはそうした決定的なものとなった解散を前提として作られた節があり、それぞれが曲を書いて持ち寄るというスタイルこそ変わらないが、ビートルズが最後に再びビートルズであることを自覚的に作ったアルバムである。
本作に収録された各曲は初期の作品のように短い曲がほとんどで、それをバランス良く並べらた全体の構成はサージェント・ペパーズに並ぶ出来と言ってよいだろう。ビートルズの持つキラキラしたポップなメロディー、シンプルながらダイナミックな演奏、実験的なアイデア性が見事にひとつのバンドサウンドとして結実している。"I Want You"や"Oh Darling"に込められたジョン・レノンのビートルズを拒否しようとする姿勢と、あくまでビートルズに拘ろうとするLP時代のB面にあたるポール・マッカートニーによる神業のようなメドレーは相反するものでありながら、これまでのようなバラバラ感はなく奇跡のような緊張感とひとつのバンドのひとつのアルバムとしてのまとまりがある。このポールのメドレーは歌詞もメロディーもミニマムな作り方がされており、美しいメロディーがたたみかけるよう繰り広げられるこのアルバムのハイライトであり、おそらくその後のソロ活動含めてポールの書いた曲の中でもこれがベストであろう。
あの時期のメンバーの心理状態の中で、これほどのアルバムを作ってしまう実力があったというのがまさにビートルズがビートルズとして今でも絶対的な支持を集める所以である。映画"Let It Be"でもスタジオのリハーサル・シーンではやる気の欠片もなく、いい加減に演奏したり、口論したりと他人事ながら心配してしまうが、Rooftop Sessionsと呼ばれたアップル社屋上でのライブシーンになると、一転してクールな演奏をきめる。これはまさにあの4人だからこそできたものであり、このサウンドの完成度の謎は今や誰もわからない。このアルバムでも、当時メンバーの中でも特に孤立していたポールの曲であるB面のメドレーなどはどういう過程を踏んで作られたのか完全な謎である。
ビートルズは言うまでもなく20世紀を代表するバンドであり、言ってしまえばすべてを完璧にこなせる優等生のような完璧なバンドであったが、それをジョンの自嘲精神とポールの遊び心で、あえてどこか一部で手を抜くというか、意識的にはずすあえて完璧なものを排除する傾向があった。どのアルバムにも必ずどこかにその茶化し精神のある遊びを入れていたが、その唯一の例外であり彼らが本気で全力を出し切ったのがサージェント・ペパーズである。バンドとしての本当の意味での活動はサージェント・ペパーズで頂点を極め、その後は分裂してしまう結果となったが、本作では前述のようにそれぞれやりたいことはソロ活動で行えるという前提で、意識的に本来のビートルズサウンドを取り戻そうとしている。本来の茶化し精神である非完全主義をも発揮したという点では、ビートルズのアルバムとしてはサージェント・ペパーズ以上に完全な作品である。(このアルバムはジョークとしか思えないラストの"Her Majesty"で終わる。) 彼らは本作で、この時点で既にただの肥大化した虚像でしかなかった誰もが求めていたビートルズをビートルズ自身が再演することで終わらせようとしたのである。結果、本作はビートルズのラストを締めくくるに相応しいクオリティと絶大な支持とセールスを記録した。
ビートルズの偉業などは今さらいうまでもなく、語り始めるとそれだけでひとつのBlogが作れてしまうほど大きなテーマである。ポップミュージックのマーケットを一気に拡大した彼らの登場は20世紀商業音楽史上に起こった最大の出来事であり、この4人がひとつのバンドにいたというのは最も幸福な偶然であり、歴史的必然でもあったのは間違いないだろう。デビューからわずか8年、次々と世界の音楽観を変え続けたビートルズは最後に自らがビートルズを演じきるという、あくまでビートルズらしいシニカルな方法論で輝かしい歴史に幕を閉じた。